ホンのちょっとだけこのGWにはヒマが出来ましたので、つらつらと、ワザと無作為に、それでいて微妙な関連性を以っていくつか映画を観ました。観た、というより、眺めた、って方が適切かも、というほどの、極めて軽い感じでの鑑賞です。
まず、「雄呂血」から始まります。スゴいところから始まるのだ。
データベースをひもときますと「雄呂血」は、製作=阪東妻三郎プロダクション 配給=マキノプロダクション 1925.11.20 浅草大東京にて公開、11巻 2,537m 白黒 無声 だそうです。だからナンだ、って感じですが。
いやはや阪妻・バンツマがカッコよかったですよ。輝いてます。キラキラ。
無声映画というものは、私的には弁士無しで観た方が面白いような気がします。
この時代、映画は活弁付きで観られることが前提だったはずなので、制作者もそれを前提に作ったに違いないのですが、それでも無声映画は無声状態で観るのがベスト、と思います。
「雄呂血」のあと「生まれてはみたけれど」を観たのですが、この際特にそう思いました。
この「生まれてはみたけれど」に、どんな活弁が付いたのか、逆に非常に興味があります。
ワタシの持ってるビデオには当然ながら活弁は付いてないのですが、この映画はもうこの映像のみで他には何も要らない、と思われます。もう既に完璧な出来上がりになってますので、どんな優秀な活弁であってもこの映画の前では蛇足でしか無いように思われます。
「生まれて・・・」には、「突貫小僧」なる、非常に特徴のある子役が出演しております。
こんなワンパクそうな、というか、クソナマイキそうなガキを良く見つけてきたもんだ、と思ったのですが、元々当時の松竹撮影所の近所で遊んでた正真正銘のワンパクなガキだったそうです。
で、突貫小僧こと青木富雄氏、ついこないだまでご存命だったそうで、仰天しました。
小津サイレント作品つながりで、「淑女と鬚」も観ました。
岡田時彦という俳優さんが主演で、非常な美男子っぷりでビックリでした。
あまりにビックリしたので、岡田氏つながりで「人間の証明」も見ました。
岡田氏のご令嬢が、ジョー山中を刺殺してました。
岡田氏のご令嬢・・・岡田茉莉子さんは「秋日和」の中では他の誰よりも美しかった・・・と、私的に思います。
あのキツそうなまなざしがタマラないのでありますよ。
ダンナさんは映画監督の吉田喜重氏。
吉田氏といえば、小津から「オレだちはコモをかぶった夜鷹で・・・」とかなんとか、意味不明な説教を長時間に渡って受けたことで知られています。
ダンナって言えば、高峰秀子サンのダンナさんの松山善三氏は、最近はどんな活動をされてるんでしょうか。
失礼を承知であえてこう呼ばせてもらいますが、「デコちゃん」は相変わらず文筆の方も冴え、また時々ナレーションなどでそのお仕事振りを拝見することもありますが。
「雄呂血」でのバンツマ氏も輝いてましたが、子役時代のデコちゃんのその輝きっぷりは、もはや尋常なものではありません。ウソだと思ったら「馬」でもなんでも観たらいいです。一目瞭然、百聞は一見にしかず、です。あれが「天賦の才」というものでしょうか。いや、ご本人の聡明さあってのことでもありましょう。
デコちゃん、一時期、麻布で古道具屋?骨董品屋?を開業されてたんだそうですが、その際いろいろと助言などなさったのが、「開運!なんでも探偵団」でおなじみの中島誠之助氏なんだそうです。
続いて、小津つながりで「お早よう」を観ました。
この映画は・・・もちろん大変面白く観たのですが、考えてみるとストーリーとしては「長屋住まいのある家族が、子供にせがまれてテレビを買う」ってだけの話で、登場人物も、一向に凄んだりせず、ただただ淡々とゴムひもやなんかを「買ってくれよう」とブツブツ言ってるだけの押し売りや、毎朝ウンコもらして杉村春子に怒られてる子供や、毎日毎日全く同じおそろいの服しか着ない兄弟や、毎朝天気の話しかしない青年など、全くもって普通じゃ無い、オカシな人ばかりです。人物に限らず小津作品は殆どがそんな感じで、誤解を恐れず書きますが、全くもって妙チクリンな映画ばかりです。
・・・こういうことはだいたい後々になって気づくのですが、最も妙チクリンなのは、「東京物語」の原節子。
戦死したダンナの親父の前で「私、ダメなんです。そんな(上等な)女じゃないんです。」とか言って突然号泣する。
一体この紀子さん(=原節子)は、ダンナが戦死した後、なにをしたんだろうか???「風の中の牝鶏」の田中絹代みたいなことしたんだろうか???と、勝手に想像が膨らみます。
で、親父(笠さん)は、ここで「そんなに自分を責めちゃいけない」とかなんとか言って、さも全てを承知しているかのような笑顔を見せる。一体この親父は息子の嫁とどういう関係なんだ???と、これまた勝手に妄想は膨らむのであります。
突然ですが、小津作品中における最高の俳優は、東野英治郎氏だと私的に思ってます。
元教師のラーメン屋(このラーメン屋も考えたら客が全員壁に向かって食べなきゃならない、という、実に奇妙なつくりでした)の店主や、電器店に転職してさっそく近所にテレビ売り歩くおじさん・・・いやはや最高のキャラです。
黒澤作品「用心棒」の、飲み屋のオヤジも最高でした。あと「どん底」の鋳掛屋と、「七人の侍」で、登場した途端に死ぬドロボウ。いずれも「水戸黄門」の数百倍は魅力的です。これも百聞は・・・です。必見です。
輝いてたって言えば、おそらく日本映画作品中で最も「輝いた」のは、「酔いどれ天使」における三船、ミフネでしょう。いやそうに違いない。そんなわけで「酔いどれ天使」と「野良犬」も観ました。
黒澤作品の中には、いくらなんでもやりすぎじゃないの?という演出etcがいくつかありますが、「酔いどれ天使」でのミフネの病気メイクと、「野良犬」のラストで、ミフネの刑事が前夜の夕立の中逃走した犯人(遊佐=木村勲)を探す際の手がかりとして「泥だらけのクツ」の男を捜すのですが、そこに現れた遊佐の下半身の「泥だらけ」っぷり(あれほど「泥だらけ」なら、注意深く探す必要が無い=すぐわかるだろ!と)、さらに「用心棒」における加東大介のドロボウコントのようなメイクと、あまりにも巨大な酒樽、これが最たるものでしょう。
ですが、そういう姑息なアラ探しなど無意味で、それほどこれらの作品群は素晴らしい。日本の宝ですホントに。
「酔いどれ天使」のミフネは、もはやこの世のものとは思えないほど輝いてました。
最後は無残に、ヤクザらしく死ぬ(ネタバレ御免)のですが、その死に様すら神々しいです。
最も輝いてたのが「酔いどれ・・・」のミフネなら、最も輝いてた人が多かったのが「どですかでん」ですね。
もう、誰もかれもが輝いてました。
逆に、あえて輝かない・輝かせないで成功してるのが、カラー化後の小津作品、とは言えないでしょうか。
・・・以下、長くなりそうなので、後日。